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「はたらくデザイン」
をめぐる対話

01「Will・Can・Must」のかけ算で「はたらく」を作る キービジュアル「Will・Can・Must」のかけ算で「はたらく」を作る キービジュアル
「Will・Can・Must」のかけ算で「はたらく」を作る

「Will・Can・Must」のかけ算で「はたらく」を作る

2018年においかぜ代表の柴田が立ち上げた「はたらくデザイン事業部」。
「はたらくデザイン」とは、働き方をより良くするための仕組みづくりや、新たなチャレンジができる環境づくりを通して、新たな「はたらく」をつくること。この考え方は、おいかぜの理念「だれかのおいかぜになる」とも通じ、全事業部の根底に流れるものでもあります。

本連載は、おいかぜ代表・柴田が、京都に縁のある経営者と「『はたらく』をデザインすること」について語り合う対談コンテンツです。第1回目のお相手は、コミュニティの力で文化的プロジェクトを生み出し続けている株式会社マガザン代表の岩崎達也さん。「編集」というキーワードを軸に、それぞれの「はたらくデザイン」について語り合いました。

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はたらく
編集

でデザインする。

VOL.01_GUEST
岩崎 達也

岩崎 達也

1985年生、兵庫県三木市出身、山田錦農家の長男。京都市在住。京都精華大学非常勤講師。
2016年株式会社マガザンを創業。複合施設マガザンキョウトにて、雑誌の特集のようにシーズン毎に空間で様々な企画を展開。2022年食の循環プラットフォームCORNER MIX を開業。ローカルカルチャーの体験価値を拡張する挑戦を続けている。
京都起業家大賞優秀賞等を受賞。同賞審査員。京都発脱炭素ライフスタイル2050メンバー。

HOST
柴田 一哉

柴田 一哉

1977年京都府生まれ。ITインフラエンジニアを経て、2003年に京都市で株式会社おいかぜを設立。プロダクション(Webデザイン・グラフィックデザイン)、ITインフラ(サーバ・ネットワーク)、はたらくデザイン(業務改善・コンサルティング)の3事業を展開し、2023年に設立20周年を迎える。「だれかのおいかぜになる」をタグラインに、テクノロジーとデザインの領域を横断しながら、クライアントの課題に日々向き合っている。

CHAPTER01

プロローグ

「実は言っていることそのままの人やな」って

柴田岩崎くんと初めて話したのは、確か2015年くらいでしたよね。共通の友人との飲み会で。

岩崎そうですね。当時僕はまだ会社員で、起業しようとしていた頃でした。

柴田その時は、岩崎くんってクールな人だなって思っていたんです。どんな人なのかあまりわからなかった。でも車の話……「アウディの初代TTに乗っている」って話はすごく印象的でした。「名車に乗ってるなぁ」と。僕も車好きなので。

岩崎そんな話しましたね!

柴田そこから少し空いて、2020年に再会したんですよ。ある交流会で隣の席になって、また車の話になって。「今何に乗っているんですか」と聞いたら、メルセデスのGクラスだった。「金持ちが乗る車」と偏見を持たれがちだけど、実際はすごくおもしろくて良い車なので「おお!」と嬉しくなって。それで、二人でドライブしたんですよね。

岩崎そうそう。楽しかったですね。Gクラスは恐縮しながら乗ってもう手放してしまいましたが、それに乗っていることを自分から話したのは柴田さんが初めてだったかもしれません。かなりの車好きってことが伝わってきたので、この方なら言っても大丈夫そうだと思ったんですよね(笑)。

柴田その時「岩崎くんってクールだと思っていたけど、実は言っていることそのままの人やな」って思ったんです。それがきっかけで仲良くなった気がします。
そこからよく一緒に出かけたり話したりするようになったんですが、経営者としての印象で言うと「とても勘所のいい人」だと感じています。アイデアを実現するスピード感がすごい。思いついたら、そこに最速で行くじゃないですか。おもしろいアイデアマンであると同時に、とても合理的な人だなと思います。

岩崎ありがとうございます。僕の柴田さんの印象は「京都というユニークな街で、先を行っている先輩」ですね。僕はもともと京都出身じゃないし、新卒で働いたのも東京だったんですが、東京では会社の成長といえば「どんどんスケールしていくこと」でした。だけど京都で起業した時「どうやらここはそうじゃないらしいぞ」と。

柴田確かにそうですね。

岩崎それじゃあ自分はどのように、どこまで行けるんだろうと考えた時に、その道標になってくれるお一人が柴田さんだと思いました。同じクリエイティブ・IT領域でもそうだし、従業員数や年商など数値的な部分でもそう。東京的ビジネス方法ではない成長の仕方をされている先輩。そういう意味では、おいかぜさんもまたユニークな会社だなと思います。

CHAPTER02

「はたらくデザイン」について

おいかぜとマガザン、それぞれの「はたらくデザイン」

柴田今日はお互いの「はたらくデザイン」について話したいのですが、このフレーズを僕が思いついたのが、コロナ禍以前、東京の校閲会社・鷗来堂の副社長をしていた時なんです。その頃、新しいことをしようとする社長と、現場を回そうとする社員の間にギャップがあるのを感じていました。そういうギャップは、どの会社にもあるものなんですけどね。
ただ、そのギャップを埋める人は社員の中に育ちにくい。社員は就業規則に則って自分たちの仕事を運営しているから、新しいことにどうしても反発を感じてしまいます。チャレンジしたい社長と、現状で手一杯の社員。その間にある境界線を行き来しつつギャップを埋められるのは、自分なんじゃないかと考えるようになりました。
じゃあどうギャップを埋めるかと言うと「労働環境を良くして、リソースに空きを作る」ことです。論理的に考えれば、現状にリソースができれば新しいことにチャレンジできます。するとみんなの満足度やモチベーションが上がり、会社全体が成長する……この循環を作ることを「はたらくデザイン」と名付けました。つまり「会社を良くしていく」ことですね。そのお手伝いができたらと「はたらくデザイン事業部」を作りました。

岩崎そうだったんですね。

柴田僕は、岩崎くんはすでにそれをやっていると思うんです。マガザンは常に新しいことにチャレンジしている。新規事業を開拓するって難しいと思うんですが、それはどのようにされているんですか?

岩崎至らないところはいろいろとありますが、マガザンとして常に意識しているのは「人」から事業を考えることです。事業に合わせて発想するというより、「この人とだったら何ができるだろう」「どうしたらうちのコンセプトに紐付けられるだろう」と考える。だからアウトプットがバラつきがちで、何屋かわかりづらくなるんですけど(笑)。

柴田そうなんですね。それは少し意外でした。「岩崎くん」という個性を軸に事業を生んでいるのかなと思っていたので。でも今の話を聞いたら、確かにマガザンの事業にはスタッフさん一人ひとりの個性が反映されていますよね。

岩崎僕は新卒でリクルートに入ったのですが、その会社の影響をすごく受けているんです。あんなに「人の成長機会」について長く話し合う会社はなかった。ぼくもその環境で育ててもらって社風が染み付いているんですよね。
だから今も毎週30分、社員全員と1on1で話をしています。1週間で人って変わるものなんですけど、その変化をいかにキャッチアップして、目線を合わせ続けて、次のステージを用意できるかを大事にしています。それを繰り返していると「この人はこれが得意やな」「今これがやりたいんやな」っていうのが見えてくる。それが事業や企画にハマって、彼らが活躍できた瞬間が、めちゃくちゃ嬉しいんですよね。

柴田なるほど。でも「人」っていろいろじゃないですか。だからこそ様々なアウトプットになると思うのですが、「これはマガザンではOK / NG」という基準はどう設けているんですか?

岩崎マガザンのタグラインは「カルチュアルプロジェクトファーム(文化的事業の創造)」なんですが、「文化」という多様なものごとを受け止めてくれる言葉を掲げることで、会社として説明がつくと思っています。

柴田その懐の深さもまた、京都っぽいですね。

岩崎まさにそうです。ただ、それを企画として成立させるには「関わる人みんなにいいことがあるか」が拠り所となります。例を一つ挙げると、CORNER MIXのトイレの音響ですね。これはうちのスタッフである、サウンドアーティストの武田が担当しているのですが、僕は彼に「音の持つ力を活かして、このトイレをリラックスできる空間にしてほしい」とオーダーしたんです。そうしたら返ってきたのが、まさかのコンテンポラリーなアンビエント・ミュージックだった(笑)。

柴田CORNER MIXでは異質ですね(笑)。

岩崎この案件で言うと、関係者はまず武田くんで、彼が気持ち良く表現できるかどうかが重要です。次にスタッフが気持ちよく使えるか、会社のブランドとして成立するか。最後まで思案したのはお客様、特にトイレを使う親御さんと赤ちゃんでした。オムツ替えシートを使う赤ちゃんが泣いたりしないか心配だったのですが、自分の子で試したら意外にも楽しんでくれたので「じゃあこれでいくか!」と。

柴田おもしろい。

岩崎そんなふうに「人」によってアウトプットのバラつきが起きつつも、雑誌の「雑」という言葉を借りてはじまりは雑多でわかりにくくてもいいと腹を括りつつ、「これが社会接続されて予定調和を超えてほしいな」と、ずっとチューニングをしている感じですね。

CHAPTER03

「はたらくデザイン」の可能性

「Will・Can・Must」が揃うことを目指す

柴田話していると「新しいことを生み出す」ことにチャレンジしているのは一緒なのに、アプローチが全然違いますよね。僕は仕組みの部分を見て、岩崎くんは人を見る。
きっと、事業内容の違いも大きいでしょうね。おいかぜの場合、ITインフラやプロダクションなど、ある程度枠が決まった事業内容なので、「その中でどうリソースを生むか」を考えている。でもマガザンの場合は逆で、「この人とどうアイデアを実現するか」から考えていますよね。

岩崎マガザンではそれを「人の持つ可能性の社会接続」と呼んでいます。うちにはスーパーエリートがいないんですよ。でも、愛すべきユニークな人はいる。京都ってそういう人多いじゃないですか。

柴田そんな人ばかりですよね。

岩崎そんな人が資本主義ど真ん中の就職をした時に、「なんか違うな」ってドロップアウトするのを何度も見てきました。その度「この人のやっていることはすごくおもしろいのにもったいない」と思っていたんです。それを仕組みとして受け止めるのが、リクルートで学んだ「Will・Can・Must」と「Opportunity」の掛け算だと考えました。

柴田「Will・Can・Must」と「Opportunity」。

岩崎「Will」はやりたいこと、「Can」はできること、「Must」は需要があること。この3つが重なる面積が大きいほど幸福度が高く、さらにそこに「Opportunity(機会)」があることが大事だと言われています。会社員でうまくいかないケースは、「あなたはこの役割ね」と「Must」がふっかかってきても、「Will」と「Can」がハマらない時が多い。

柴田確かに。

岩崎大体の場合、まず「Must」が来て「Can」を追いつかせるのが鉄則です。その中で「Will」が育まれることも多いのですが、「Will」が置き去りになってしまうケースもあります。僕は、そこでこぼれ落ちていくものが気になって仕方なかった。それが、資本主義のレールに乗り切れない、魅力的な人たちでした。自分もそうだったから、そんな方々と何か一緒にできたらおもしろいなと思って、起業に舵を切ったんです。

柴田そうなんですね。

岩崎マガザンでは、1on1を通じて「Will・Can・Must」を全社員とすり合わせ続けています。みんなの「Will」の解像度を高め、「Can」「Must」と繋げていく。そうすれば本人も嬉しいし、売上も上がるし、給料も上げられるし……というのが、僕なりのシナリオです。だけどそれって、僕自身が世の中を理解していないとできないことなんですよね。だから「君の才能や好きなこと、いいね」って言うのは、実はすごくプレッシャーがかかる提案で。

柴田「Must」の判断基準が、岩崎くんに委ねられていますもんね。

岩崎そこはみんなにも気づいてほしいんですけど(笑)。ともかく僕というバイアスがかかりつつも、「Will・Can・Must」をどこまで成立させられるかをいつも考えています。

柴田通常のビジネスって、「Must」と「Can」さえあれば成立しますよね。うちの事業なんてまさにそうだけど、それだけだとおもしろくないから、「Will」をどう育てていくかだと思っている。僕はその「Will」を、「Must」と「Can」の余剰で生み出そうとしているんだろうな。一方で岩崎くんは「Will」にまず重点を置いて、そこから「Must」と「Can」を引っ張り出そうとしている。順番は違うけれど、どちらも最終的には「Will・Can・Must」が揃うことを目指しているんでしょうね。

CHAPTER04

「編集」と「はたらくデザイン」

生態系のような、社会資本のような

柴田岩崎くんは「編集長」という肩書きもありますが、岩崎くんにとっての「編集」はどんな風に事業に繋がっているんでしょうか。

岩崎僕にとっての「編集」は、「今あるものを編み合わせて、価値あるユニークなものに仕立てる」という意味です。クリエイティブは、何もないところからは生まれない。人や物を紐付け、その編み合わせがうまくできたときに初めて価値化する。「デザイン」を工業的な考え方だとすれば、「編集」はより生態系、生き物っぽいイメージかもしれません。操りにくいんですが、魅力がある。そこにずっと憧れがありますね。

柴田すごく有機的なイメージですね。今まで話してくれた内容に繋がるなぁ。
僕は「編集」という言葉をあまり意識したことがないのですが、強いて言えば「だれかのおいかぜになる」という理念がそれにあたるかもしれません。「編集」って裏方ですよね。メインとして表に出るのではなく、裏で整える感じ。「おいかぜ」の目指すところもまさにそれで、色も形もない風が主体を吹かせるイメージなんです。
僕自身も、スタッフに対してそういう態度でいたいと思っています。社長なんだけど、前に出なくていい。僕自身はどんどん透明になって、後ろから風を吹かせて、彼らが有機的に動ける状態にしたい。ただそうすると社長の存在感まで消えてしまうので、葛藤もあるのですが……。

岩崎柴田さんが透明の風になるなら、おいかぜは社員の色になるんですね。

柴田そうです。社員の「Will」を前面に出したい。僕の言葉で言うと、会社を社会資本的にしたいんです。みんなが会社という場所を、もっと都合よく使えるようにできないかなと思っている。それによってみんなの「Will」が育まれてみんなの人生が良くなればいいなと。

岩崎うちのメンバーをはじめ「Will」で動いている人たちは、こういう方を大事にしないといけないんですよ……。

柴田ありがとうございます(笑)。

岩崎僕、たまに社員を叱ることがあるんですけど、多くの場合はお礼を言わなかった時なんですよね。「『自分がやった』じゃないよ。誰のおかげがあってやりたいことができてると思ってんねん」と。「I」と「We」の使い分けは大事にしてほしいとよく言っています。

柴田本当にそうですね。

岩崎じゃあ、柴田さんにとっては「みんなのWillを叶えること」が「Will」なんですね。それが成立した時、どんな喜びを感じるんですか?

柴田「全部僕が関わっているな」っていう……。

岩崎ああ、まさに「おいかぜ」ですね。よく「このプロジェクトに関わっている」っていう言い方をするじゃないですか。だけど「このプロジェクトに作用している」っていうのは、一つ上のレベルのことだと思うんです。それで言うと、「おいかぜ」は作用していますよね。いっちょ噛みじゃないというか。

柴田そうですね。おいかぜの事業としても、保守も構築もデザインもできるから、どのフェーズでも入り込めるんです。それもすごく風っぽい。その性質を活かして「はたらく」をデザインしていきたいですね。

CHAPTER05

エピローグ

「Will」は確固たるものじゃなく変わっていくもの

柴田ところでマガザンには「Will」のない人はいないんですか?

岩崎いますよ。でもそういう人たちはわかりやすい「Will」がないだけで、掘り下げてみると「頼まれたことを頑張って役に立ちたい」とか「Willに囲まれた環境にいたい」というタイプだったりするんです。そういうタイプがいるからこそ生態系も成り立つ。だから「Will」がないといけないってことはないんですよね。それをどう自認して、前に進もうとするかが大事。

柴田確かに。僕自身そういうタイプですしね。ちなみに、岩崎くん個人の「Will」は何なんですか?

岩崎今は、兵庫県三木市にある酒米農家の実家を継いで、次につなげるプロジェクトを実現することですね。コロナ禍はチーム作りに注力したので、今度は自分個人のその「Will」に向き合いたいと思っています。チームの力が育ってきたからこそ、今ならチャレンジできるのではないかと。

岩崎あともっと大きな話で言うと、以前「何でもできるとしたら、何がしたいですか?」と質問をされて、「全国を回ってお礼を言いたい」って答えたことがあったんです。いろんな人と関わりながらここまで来れたので、お礼を言いたい人がたくさんいる。「お互いを讃えあって人生を閉じたいな」というのは大きなWillですね。

柴田素敵ですね。今日はお互いの「Will」へのアプローチの違いが明確になっておもしろかったです。感性は近いと思っていたけど、「はたらくデザイン」のやり方が異なるからこそ事業にも違いが出るというのは、すごい発見でした。
そして改めて、自分は仕組みづくりにチャレンジし続けているんだと自覚できました。「既存の組織体系で『Will』をどう育むか」は、次の10年20年のテーマ設定としていいなと思いましたね。

岩崎20年……すごいですね。

柴田40代半ばっていろいろ考えるんですよ(笑)。「Will」も変わってきますし。

岩崎「Will」は変わり得るものだと自覚しておくのも大事ですよね。いつも確固たるものではないってこと。今日は本当におもしろかったです。ありがとうございました。

柴田こちらこそありがとうございました。

MEMO

今回対談を行った場所は、昨年マガザンさんがオープンされたばかりのミックスジュース専門店「CORNERMIX」。こちらでは、おいかぜの自社プロジェクト「こどものためのでざいんぷろじぇくと ワワワ」とコラボしたワークショップも開催しています。
今年はさらに、家具や店舗の設計・施工をしているミクロコスモスと組んで、バイクを漕ぐとミックスジュースができる「MIXBIKE」を開発。このMIXBIKEで作ったミックスジュースの売り上げの一部は、京都市の公園整備事業に活用する予定です。CORNERMIXに常設中ですので、ぜひ漕ぎに行ってみてください。今後はイベントにもお出かけ予定。どうぞお楽しみに!

取材・文
土門蘭
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